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当時私は、就職活動のために都心の叔母の家に居候していた。
「腰が痛い」といって大学病院に入院してから、ひと夏が過ぎるのを待たずして、叔母は帰らぬ人となった。
外で食事をすると、店を出る前にかならずコンパクトを開けて紅を引きなおす、そんな華やかな人だった。
のこされた大学ノートに記された「こわい、こわい」という文字の連なりを、私はいまも忘れない。
真実を知らされず、手術室から生きて帰れぬ恐怖とはどれほどのものだろう。
自分のいのちが自分自身のものではない無力感とは、どれほどのものだろう。
叔母の恐怖と無力感をどうすることもできずに抱えたまま、翌春、私は社会に出た。
新聞記者となり、いくつもの生き死にに出あいながらつねに見つづけていたのは、「医療はどこへ向かうのか」ということだった。
「あの頃、もし日本に骨髄バンクがあり、あなたのドナー登録があったなら、きっと僕らは、46歳のNさんに会えたにちがいない」という骨髄バンクのCMがある。
Nさんの輝くばかりの笑顔が画面いっぱいに映しだされるたびに、どこか雰囲気の似ている叔母を思い、「あのときもっと早くみつけていれば」「あのときインフォームド・コンセントがきちんとされていたなら」「あのときもっといい抗がん剤があったなら」をしなければ」「あのとき緩和医療があったなら」……と、際限のない「もしも」を連ねる。
そろそろあのときの叔母の年齢に近づいて、あらためて21世紀の医療をみわたすと、革命というにふさわしい大きな変革がおこりつつあることを感じる。
大学4年の秋、叔母を子宮がんで喪った。
1984年の、秋の訪れを告げる冷え冷えとした雨。
日本人の三大死因であるがん、心臓病、脳卒中といったいのちにかかわる病気に対する最先端の治療法にとどまらず、かぜやアトピー性皮層炎、糖尿病といった身近な病気や生活習慣病、だれもが経験する更年期障害、それに、最近増えているアルツハイマー病やめまい、睡眠障害、子どもの低血圧などのいわゆる現代病に対する予防や治療法ももりこんだ。
進展がめざましいにもかかわらず、一般の目からはわかりにくい生殖医療や再生医療、遺伝子治療、新しい放射線治療やロボット支援手術についても、身近に感じていただけると思う。
EBMという言葉に象徴される、科学に裏打ちされた医療の胎動をお伝えできればと思っている。
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